膨れ上がる社会保障費を背景に、持続可能な医療や介護の姿とは-。CBnewsは、日本医業経営コンサルタント協会とタッグを組み、医療や介護の未来像を探す連載寄稿「多事創論」をスタート。2回目は東京都支部理事(企画担当)を務める、「認定登録 医業経営コンサルタント」の外山和也氏。
木はしなやかで、傷めば補修が出来、建て替えも割に容易で、環境変化に合わせて柔軟に形を変えられます。日本社会は、「柔軟性」を美徳として発展してきたことで、「木の文化」と言われる所以なのでしょう。
一方、欧米は「石の文化」です。石造りの建築は頑丈ですが、簡単には形を変えられません。その代わり、最初に長期的な設計図を緻密に描きます。都市計画も、経営戦略も、「100年後」を前提に積み上げていく発想が強いのです。
筆者は今、病院経営に「石の文化」の発想が必要な気がしてなりません。
日本の病院は、極めて対応力が高いと言えます。特に新型コロナウイルス対応では、それが顕著でした。感染対策マニュアルを一晩で整備し、病棟を転換し、発熱外来を立ち上げ、防護具不足の中で現場が工夫を重ねました。行政の指示が二転三転する中でも、日本の医療機関は「とにかく今を乗り切る」ために驚異的な適応力を発揮しました。
しかし、その一方で、アフターコロナ対応が、気になります。「あれほどの大騒ぎだったのに、喉元を過ぎれば結局また元に戻っていないか」と感じます。
もちろん、通常の体制に戻ること自体は悪いことではありませんが、コロナ禍で露呈した、専門人材の不足、現場の疲弊、サプライチェーンの脆弱性、ICT化の遅れ、意思決定の遅さといった課題について、どこまで改革が進んだのでしょうか。
本来であれば、コロナは「未来の医療体制を考える」絶好のタイミングだったはずです。しかしながら、日本の病院(行政の対応も含めて)は、良くも悪くも「木の文化」経営なのだと思います。
よく言えば「しなやか」、悪く言えば「場当たり的」です。
コロナが落ち着いた頃(おそらく2022年ごろ)に、筆者はある中小病院の事務長に聞いたことがあります。「あと2-3年すると、コロナのゼロゼロ融資の元本の返済が始まるけれど、資金繰りは大丈夫ですか?」と。すると「今は周りの病院も含めてキャッシュは潤沢だよ。資金繰りに苦労しているという話は聞かないな」という回答でした。
「本当に返済が始まっても大丈夫でしょうか。2-3年なんてあっという間ですよ。今からでも対応を考えておく必要はありませんか」と念押ししても、響くことはありませんでした。
その当時は、「(営業損益ベースでは)勘定合わずとも、(補助金等のおかげで)銭足りる」状況で、言ってみればコロナ・バブル、あるいはコロナ太りに過ぎなかっただけなのですが。手許に多少の資金があったので、補助金が打ち切られたあとでも、ゼロゼロ融資の元金の返済が始まっても資金繰りは問題なしだと思っていたのでしょうか。
これは後出しじゃんけんでなく、本当にその話を聞いた時に、筆者は「そんなはずはない」と密かに思っていましたし、事務長ともあろう人が中長期的視点を持たず、こんな稚拙な考えなのだろうかとも感じました。補助金が永遠に続くとでも思っていたのでしょうか。はたまた、ビフォアーコロナのころのように患者が戻ってくると踏んでいたのかと考えてしまいます。
日本の病院(行政の対応も含めて)は、危機が去ると元に戻ってしまう。場当たり的対応には強いものの、20年後を見据えた構造改革は苦手です。
日本の医療を取り巻く環境変化は、過去のそれとは比較にならないほど大きいと言えます。人類史上誰も経験したことがない少子高齢社会に突入し、生産年齢人口は急減し、医療従事者の確保はますます困難になり、これまでにない事態が起き始めています。
今、日本の病院経営には、「しなやかさ」といった「木の文化」のいいところを残しつつ、「石の文化」の視点も取り入れて、「想像力」「創造力」を働かせることが必要なのではないかと思います。
5年後、10年後、20年後に、この地域はどうなるのか。自院は何を強みに残し、何を手放すのか。病床機能、人材構成、建物への投資、DX、地域連携をどう設計するのか。その議論を、「今は忙しいから後で」ではなく、淡々と、コツコツと、地道に、確実に進めていかなければなりません。
「木の文化」の柔軟性は、日本医療の大きな強みであり、現場力、現実対応力、助け合い文化は世界に誇れるものです。しかし、木だけでは森は守れません。これからの病院経営には、しなやかさに加え、「ひとつひとつ石を積むような長期的視点」が求められると強く感じます。
公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会
医療・介護・福祉分野の経営支援を担う専門家「認定登録 医業経営コンサルタント」の養成、認定を行う。調査研究や研修、資格制度の運営を通じて医業経営コンサルタントの向上を図り、地域医療や社会保障の発展に貢献している。
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